正しい知識

日本人が「長生き」な3つの理由と、平均寿命・健康寿命の関係性

織田信長が「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり」とうたったのは、1582年のことです。その頃の日本では「人生は50年程度」という認識が当たり前でした。

本能寺の変から432年を経た、2020年の日本人の平均寿命は、85歳に至ろうとしていますから、いかに日本が長寿国として成長してきたかがが分かります。

「お年寄り」の定義は時代に合わせて変化しています。いまや60代・70代のシニア層はまだまだ元気ですし、「人生100年時代」という言葉も定着し始めました。

日本人の長生きは、データにはっきりと現れています。WHO(世界保健機関)が2018年に発表した統計からみてみましょう。

1位:日本男女の平均寿命84.2歳
2位:スイス男女の平均寿命83.3歳
3位:スペイン男女の平均寿命83.1歳

日本は、前回の調査では83.7歳で、2位のスイスと僅差でした。しかし2018年では、1歳近い差をつけ、堂々の1位となっています。

では、寿命が短い国はどれくらいの数字なのでしょうか。

181位:シェラレオネ男女の平均寿命53.1歳
182位:中央アフリカ共和国男女の平均寿命53.3歳
183位:レソト男女の平均寿命52.9歳

(出典:WHO世界保健統計2018年版に掲載されている男女の平均寿命統計より)

日本との30歳ほどの差に、驚かれるのではないでしょうか。

ただし、単に数字上の寿命が延びることに意味はありません。何より「健康」を維持したまま、幸せに長寿社会を迎える必要があります。

それは、どうしたらいいのでしょうか。

\\\ 本当のところを、専門医に聞いてみましょう ///

教えて先生!

小西康弘Yasuhiro Konishi

医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長

2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士

長寿化の理由はさまざまありますが、3つに分けて考えてみましょう。

その① 栄養状態が良くなった

和食には、脂肪分が少なく穀物や海産物の摂取量が他国より多いというデータがあります。素朴でありながらも、味噌・豆腐などの大豆製品をふんだんに使った和食は、古来から日本人の身体によい影響を与えてきました。

「腹八分目」がよしとされるように、食べ過ぎず、粗食をよく噛む習慣も健康につながっているといわれています。

現代的な食生活も栄養バランスを改善しました。食事の欧米化によるカロリー摂取量の増加なども、日本人全体の寿命に関係していると考えられます。

その② 感染症を克服できた

抗生物質の発見による感染症の克服も、大きな要因です。

不治の病とされてきた結核も、今は治る病気です。紀元前12世紀からその脅威が記録されている天然痘もワクチンの発見で根絶できたように、罹患したら死に至るような感染症はどんどん減っています。

もちろん、インフルエンザや風疹など流行を繰り返す感染症や、新型コロナウイルスのような実態の分からない感染症との戦いはまだまだ続くでしょう。しかし、適切な対処で防げるようになった感染症の方が多いのは事実です。

その③ 医療制度が整っている

ときにデメリットばかりが取り上げられる日本の医療制度ですが、これほどに充実している国は少ないといっていいでしょう。

日本の保険制度は「国民皆保険制度」といい、社会保険料を支払い、「医療保険、介護保険、労災保険、雇用保険、年金保険」への加入が義務付けられています。
会社員には健康診断を受ける権利もあり、不安があれば任意での人間ドックや脳ドックなども受けやすい体制が整っています。

病気を発見し、最小限の負担で治療が受けられる社会構造も、平均寿命を引き上げている大きな要因といえるでしょう。

寿命は延びても、健康でないと意味はない

ここまで日本人が長寿である理由を見てきましたが、数字上の平均寿命が延びても、生きることに幸福感が見いだせなければ意味はありません。

「健康寿命」とは、介護などで寝たきりになったりせずに日常生活を送れる期間を指します。厚生労働省の発表した2016年の日本人の健康寿命は、男性72.14歳、女性は74.79歳でした。平均寿命と健康寿命には約10年ほどの差がありますが、人生最後の10年を健康に暮らせるかどうか…は、かつてないほどの長寿社会を迎える私たちの大きな課題です。

長寿社会の問題は、健康が解決する

近ごろでは高齢者のひとり暮らしや孤独死が課題視されています。ひとりで過ごす老後がダメということではありません。しかし「健康」かつ社会的に孤立していないという土台がないと、思うような老後は過ごせないでしょう。
食生活や運動などの生活習慣だけではなく、老後のメンタルヘルスも考える必要があります。家族に限らず、会話のできるコミュニティに入っておく、ネットなどをうまく利用して情報を取る、趣味を充実させる…これらは、身体だけではなく心の健康にも一役買うはずです。

「健康で長生き」を叶える、自己治癒力の向上

健康寿命は、すでに老後に入った方の課題であると同時に、現役世代の課題でもああるでしょう。便利さを追い求め、自分の健康に無頓着な人の多さを危惧しています。40代、50代の慢性的不調を、先送りにしてはいけません。大きな病気に発展する前に、自己治癒力を高めておき、1年でも長い健康寿命を手に入れてください。

日本の医療制度は優秀ですし、予防医学という観点で診療を受けることは十分に可能です。病気になってからではなく、病気にならない身体を作るため、定期メンテナンスとしてのクリニック受診を心がけてみてはいかかでしょうか。

健康があってはじめて、日本人は「平均寿命世界一」の素晴らしさを享受できるのです。

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