正しい知識

菌は「汚い」の?注意したい、除菌アイテムの使い過ぎ

2020年、生活のさまざまな場所に新型コロナウイルスの影響が及びました。その中のひとつが「公共トイレのハンドドライヤーの使用中止」です。他人との共有を止め、ウイルスの拡散を防ぐためではありますが、ネット上では「不便」「感染防止にはならない」などさまざまな声が上がりました。

2000年以降のハンドドライヤーの普及は、若い女性から「ハンカチを持ち運ぶ習慣」を奪ったともいわれてきました。

用を足して手を洗ったあとハンカチで手を拭き、湿ったハンカチを持ち歩くことを考えると、その場で乾かしてしまった方が清潔と感じられるのでしょう。かつての「身だしなみ」必須アイテムは、今や「汚い」ものとして捉えられているようです。

ハンカチと雑菌にしても、ハンドドライヤーとウイルスにしても、私たちは常に「目に見えない汚い何か」と戦い続けています。特に、アトピー性皮膚炎や湿疹に悩む方たちは「肌に汚いものが付着する」ことに敏感になり、除去のためにさまざまな工夫を凝らしているのではないでしょうか。

雑菌に敏感にならざるを得ない現代社会、あなたの部屋にも、除菌スプレーや化学洗剤がたくさん置かれているはず。洗濯洗剤には「徹底除菌」の文字が踊り、テレビではテーブルや空気中に菌が飛び回るグラフィックが流され…菌を排除しなければ、すぐに悪いことが起きるような扱われ方です。

しかし、ハンカチに繁殖した雑菌程度で人は死ぬのでしょうか。
気を付けるべきポイントは、他にあるような気がしますが…

\\\ そこのところ、専門医に聞いてきました ///

教えて先生!

小西康弘Yasuhiro Konishi

医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長

2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士

人類は、雑菌も含めたさまざまな菌と共存共栄してきました。

カビ菌やウイルスなど悪影響を与える菌が体内に入ったときは、身体の解毒機能で排出する仕組みを備え、よい菌と助け合いながら進化してきたのです。しかし菌に意識過剰になり、除菌ばかりを行っていると、毒に対する抵抗力は落ちていきます。

もちろん生死にかかわる悪い菌には注意が必要ですが、過度な清潔信仰は子どもの免疫を落としてしまいます。アトピー性皮膚炎やアレルギーなどは現代病といわれますが、免疫機能が低下したことが、患者増加の一因ともいえるでしょう。

悪玉菌は必要悪な存在

「悪い菌=悪」ではありません。たとえば腸内に善玉菌しかおらず、悪玉菌がゼロであれば、健康は損なわれます。ある程度の悪玉菌は、体内に悪いものが入ってきたときの免疫反応や、毒に対しての防衛体制の準備のために必要です。

たとえるなら、校内に数名の不良生徒がいることで他校からの攻撃を牽制し、襲われたときに学校が守られる…という、必要悪のような仕組みと考えていただければよいでしょう。

最近では、砂遊び後にあえて石鹸を使わず、水洗いだけでご飯を食べるスタイルの幼稚園もあるくらいです。

予防接種で打つワクチンも、同じシステムです。弱毒菌をわざと入れて免疫をつくるからこそ、外部攻撃に対抗できるのです。

化学的な除菌は、必要ない

目に見えない「汚いもの」に敏感になるのは、ある程度仕方ないでしょう。

しかし除菌アイテムには、菌を瞬殺できるほどの強い化学的成分が含まれています。人体と共存できる菌に神経質になる前に、そのような化学物質が体内に溜まることに、もっと危機感を抱くべきではないでしょうか。「汚いもの」に過敏になりすぎた結果、化学物質を取り込んでしまっては冗談にもなりません。

生まれた場所で自然に触れ、昔からある食材を口に入れているうちは、健康に問題は出ないものです。毒キノコを食べたり、傷口から破傷風菌が入ったら死にますが、それは別問題です。人類は気候や自然に順応して発展してきたわけですから、わざわざ化学的に除菌をする必要はあまりないのです。

体内に溜まる化学薬品

除菌アイテムや洗剤に大量に使われている化学物質は、少しづつですが体内に蓄積され、健康被害の元となるでしょう。

今時点で、化学物質や添加物が自分の中にどれくらい溜まっているかを可視化する検査はありませんが、環境汚染物質やトキシン(毒素)をはかる「化学物質検査」などは行われています。

実際、原因不明の体調不良がトキシンなどの毒素で引き起こされていたことが分かり、解毒機能に対する治療で体調が改善するケースも増えています。

使用量を減らし、身体の基礎力を上げる

人類は、今初めて「化学物質が原因で引き起こされる体調不良」に遭遇しています。だから、何十年も化学物質に触れてきた人が老後にどうなるか…という結果は、今はまだ推測しかできていません。

本当は、グラフなどで自分の危険度が分かれば便利なのでしょうが、そのような予防方法は存在しません。リスクを回避したいなら、除菌アイテムや化学物質を多く含む洗剤との接触に意識を向け、使う量を減らすしかないのです。

使用量をまったく0にする必要はありません。体内にある程度入ってきても、人間はそれを解毒する力を持っていますし、過敏になり過ぎては逆にストレスが溜まってしまうからです。

必要なのは、情報に振り回されず、自分の「本来の解毒機能」を維持することです。「何度も洗わないといけない」という強迫観念を捨てて、人間らしい健康とは何か?について考えてみてはいかがでしょうか。

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