正しい知識
母から子へ受け継がれる腸内細菌のミステリアスな仕組み
同じものを食べて育った兄弟姉妹なのに、胃腸の強さや、おなかをこわす食材が異なるのはどうしてだろう…と疑問を持ったことはありませんか?
実は個人の腸内環境は、産道を通るときにお母さんから受け継いだ「腸内細菌」を飲み込んでできあがっていくため、生まれた瞬間にある程度決まってしまいます。
お母さんの腸内環境だって1年も経てば大きく変化しますから、兄弟姉妹の「おなかの中」が違うのは当たり前。だからこそ、出産を控えたお母さんは栄養バランスや生活習慣に気を配り、自身の腸内環境を整えなくてはいけません。
お母さんから受け継がれた腸内細菌たちは、その子の腸内で独自に進化し、個別の免疫力を形成していきます。「牛乳に弱い」「太りやすい」「風邪をひきやすい」などの体質の差は、腸内環境と免疫力の違いに理由を見ることができるようです。
今回は、お母さんから受け継がれる腸内細菌のミステリアスな仕組みと免疫力について。赤ちゃんの健康のためにも、ぜひとも知っておきたいですね。
\\\ そこのところ、専門医に聞いてきました ///
教えて先生!
小西康弘Yasuhiro Konishi
医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長
2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士
免疫力とは、私たちの身体が感染症やウイルスに対して抵抗力を獲得することをいいますが、新生児はまだ予防接種もしていなければ、病気にかかった経験もありません。そのため、生まれてから自分独自の免疫力を形成していきます。
人の免疫力は腸が司っていますから、免疫力の強い・弱いは出産時に受け継いだ腸内細菌が鍵を握ります。ただし近年、免疫力の形成には先天的な要因に加えて後天的要因も非常に大きいことが分かってきました。
おなかの中の赤ちゃんは無菌状態
おなかの中にいる赤ちゃんは無菌状態で過ごしていますが、膣を通過するときにお母さんの膣中にある「フローラ(微生物)」を飲み込み、自分の腸内細菌を獲得しながら生まれてきます。
妊娠した女性の膣内では、妊娠中に繁殖した善玉菌や悪玉菌が暖かいベッドの役割を果たし、酪酸菌という菌が増殖しています。
妊娠すると膣内は通常の状態から変化し始め、ラクトバシルスという菌が増えていきます。ラクトバシルス菌は乳酸を分泌します。乳酸は膣内を酸性に傾け、雑菌の繁殖を防いでくれます。
さらに、ラクトバシルス菌はバクテリオシンという自然の抗生物質を作り出し、生まれるときの赤ちゃんの腸内に入ろうとする雑菌を殺す役割を果たしています。
このように、妊娠中のお母さんは自分の膣内環境を自然変化させています。実際、新生児の腸内にいる微生物の種類や菌株を確認すると、お母さんの膣内のそれと最も近しいことが分かっています。
帝王切開では産道の細菌を飲み込まないので、自然分娩の子どもより腸内環境の形成が弱くなるのは、仕方ありません。
お母さんにできること
妊娠中の膣内環境には、多少気を付ける必要があるでしょう。たとえば婦人科では、出産前には膣内にカンジタ菌がいないか調べて、いたら除菌をしています。
出産時の膣内環境をよい状態にするには、まずはお母さんが自分の腸内環境を整えておかなければいけません。出産までのたった10カ月であっても、腸内環境に気を配ることは充分に意味を持ちます。
妊娠中は、自身の免疫力を下げないよう食事や睡眠にも気を配り、なるべくゆったりして過ごしてください。
後天的に形成される腸内環境
自分の持っている微生物がそのまま赤ちゃんに受け継がれる…と聞くと、不安になるお母さんもいらっしゃるかも知れません。
しかし人の腸内環境は千差万別です。食べたものや生活習慣によって多様に変化していきますから、その子なりの腸内フローラを育てるサポートができていれば、心配無用です。
授乳期の赤ちゃんの腸内細菌の90%は、善玉菌であるビフィズス菌だといわれていますが、離乳食も終わり大人と同じような食事を食べるようになると、徐々に悪玉菌が増えていきます。少量の悪玉菌は、悪玉菌が増えたときに対応できる「免疫力」を高めますから、これも恐がる必要はありません。
免疫寛容
「免疫寛容」という時期があります。3歳くらいまでを指し、はじめて食べたものを身体が記憶します。その時期に形成された腸内細菌は、体外から入ってきた菌も含めて「自分の菌」として免疫に記憶されます。
出産時に受け継いだお母さんの菌と、生まれてから出会うたくさんの栄養素・微生物が、その子どもの腸内環境をどんどん育て、免疫力を高めていくのです。
産まれたときの状態がそのまま続くわけではありません。たとえ帝王切開であっても、後天的に腸内環境を整えることは可能です。赤ちゃんにはバランスの良い食事を与え、腸内にいい菌が定着するよう、配慮してください。
何を食べ、どう生きていくか。それを一緒に考えてあげることこそ、子どもの腸内環境に対してしてあげられる大切なサポートではないでしょうか。