正しい知識
紫外線とビタミンD
かつて、「子どもはお日様に当たって、真っ黒になるのが健康的」といわれ、過剰な日焼け対策をする人は神経質とも思われていた時代がありました。昭和時代に小学生だった方は、真っ黒に焼けるまで太陽の下で遊んだ光景が思い出されるのではないでしょうか。
しかし1980年代から「オゾン層破壊」が取り沙汰され、紫外線は皮膚ガンの原因になるなどの有害性に注目が集まりました。さらにここ数年は猛暑が続き、日焼けどころか命の危険を感じる日も増えましたね。
男性でも日傘を使う方が増え、日焼け止めクリームなどの防御グッズのマーケットは拡大するばかり。太陽はどんどん悪者扱いされているようです。
美容的な観点から見ると、確かに紫外線にはデメリットが多くあります。しかし健康維持を考えるとき、紫外線を完全に「悪」といい切ることはできません。特に、高齢者や妊婦さんなど骨を強くする必要がある方にとっては、紫外線にはメリットもあるようです。
今回は紫外線と健康の関係について、考えてみたいと思います。
\\\ そこのところ、専門医に聞いてみました ///
教えて先生!
小西康弘Yasuhiro Konishi
医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長
2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士
太陽から放たれて地球に届く紫外線には、「UVA」と「UVB」の2種類があります。
UVAとは、290〜400nm
UVBとは、320〜400nm
の波長域を持つ光です。
UVAは、地表に届く全紫外線のうち約95%を占めます。照射量が多く、皮膚の深い部分である「真皮層」まで達してコラーゲンやヒアルロン酸などを作り出す線維芽細胞に損傷を与え、たるみやシワの原因となります。またUVBは、照射量は5%と少ないもののUVAよりエネルギーが強く、表皮に日焼けを起こします。火傷のような日焼けやシミにもつながります。
そう聞くと紫外線にはデメリットしかないように思えますが、体内でビタミンDを生成するという大切な役割を果たしています。
ビタミンDの働き
ビタミンDは以下のような機能を担っています。
- カルシウム吸収を促し、血中のカルシウム濃度を一定に保ち、骨を強くする
- 骨量を保って、骨粗しょう症などを防ぐ
- 免疫機能を調節する働きを持つ
ビタミンDの不足は、糖尿病、自閉症、うつ病などの原因にもなり得ると示唆されています。病気の原因をひとつの栄養素に求めることはできませんが、ビタミンD不足が健康被害につながることは事実でしょう。
生殖機能にも関係するビタミンD
ビタミンDは、骨や免疫機能だけではなく生殖機能にも関係しています。特に妊婦さんにとってビタミンDは欠かせません。ビタミンDの不足は、妊婦・胎児の両方の骨の健康に悪影響を及ぼすからです。実際、日照時間が短い北欧では、若い女性のビタミンD欠乏率が高いことが問題視されています。
近年は不妊治療を行う方も増えていますが、これから妊娠を考える方も欠乏症には注意しましょう。血中のビタミンD濃度が低い場合、体外受精での妊娠率が下がったり、流産のリスクが高まります。
男性にもリスクがあります。ビタミンDの欠乏した男性では、精子運動や前進精子運動率、正常精子形態率が低いことが分かっています。
ビタミンDは食事と紫外線で作る
ビタミンDを得るには、食事から摂る方法と、日光を浴びて紫外線にビタミンDを作ってもらう方法があります。
厚生労働省の調査によると、1日に必要なビタミンDの摂取量は15µですが、食品から摂れるとされるビタミンDはたったの5.5µgです。そのため残りは日光を浴び、体内で生成しなくてはなりません。ちなみに世界人口の半分がビタミンD欠乏症だといわれています。大気汚染や、野外での活動の減少、紫外線カット製品の普及が全世界的に進んでいるためです。
ビタミンDのための短い日光浴を
季節や日光量にも寄りますが、夏場であれば15〜30分程度で十分です。当然ながら、UVカット製品を使ったり、長袖・長ズボンでは効率よく紫外線を吸収できません。手足も太陽光に当てれば照射面積が倍以上になりますから、時間を半分に短縮できます。
猛暑日に無理に浴びる必要はありません。太陽から直接でなくとも、紫外線は空気中で散乱したり建物やアスファルトから反射しています。直射日光を避け、木陰やベランダで15程度過ごす、というスタイルでも十分でしょう。
紫外線が強くなるのは5月〜8月です。その日の紫外線量は、環境省サイトや天気ニュースなどで調べることもできます。危険なほど暑い日は避け、健康維持に役立つ形で適度に日光浴をするようにしてください。