正しい知識
なぜ和食には食物繊維が豊富なのか
積極的に食べた方がよいとされる食物繊維ですが、人体は、そもそも食物繊維を分解できません。
「分解できないのに、どうして食べないといけないの?」
「分解吸収されなければ、栄養にならないのでは?」
とお思いですか?
食物繊維が不足すると便秘になりやすくなります。痔になったり、大腸ガンのリスクも高まります。糖尿病などの生活習慣病のリスクも上がるでしょう。
「食物繊維が必要なのは分かりました。でもやっぱり、分解できなければ意味がなさそう…」
疑問は晴れませんが、大昔から日本人が食物繊維の多い食材を食べてきたのは事実。玄米や麦飯などの穀物、おからや納豆など豆類、コンニャクやサツマイモなどの芋類、根菜、きのこ、海藻…和食と食物繊維は、切っても切り離せません。
そこで今回は、分解できないのに身体に必要な食物繊維という栄養素と、日本人との関係について、少し詳しく探ってみようと思います。
\\\ 食物繊維について、専門医に聞いてきました ///
教えて先生!
小西康弘Yasuhiro Konishi
医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長
2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士
食物繊維の定義は「人間の消化酵素では消化できない食品中の難消化成分」です。
食物を分解・吸収するのは腸ですから、食物繊維も当然腸を通過します。腸には無数の腸内細菌が存在します。腸内細菌の分布は、文化的・地域的風土に関係していますから、日本人の腸内細菌は長い年月をかけて変化し、母から子へ受け継がれ、分解できない食物繊維を体内に吸収できるまでの「日本人独自」の腸内環境をつくりあげてきたのです。
「ヒト」は食物繊維を分解できませんが、古来からコンニャクや海苔など、日本独自の繊維質の多い食材を日常的に食べてきた「日本人」は、腸内細菌によって食物繊維をうまく身体機能維持に活用しているといえるでしょう。
不足しがちな食物繊維
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年版)では、食物繊維の1日の摂取目安量は女性18 g以上、男性21 g以上(ともに18~64歳の場合)と定められています。
近年の食生活の欧米化により、食物繊維の摂取量は年々減少しています。「平成29年国民健康・栄養調査」では、すべての年代で、男女問わず不足していることが分かっています。これは、日本人の腸内環境を考えるうえで、少し危険な兆候です。
健康維持に欠かせない食物繊維
欧米人に食物繊維が不要なわけではありません。食物繊維は小腸で分解されず大腸まで達する成分です。便の体積を増やしたり、大腸内の活性化に役立ちますから、どの国の人であっても食物繊維の恩恵を受けています。
1970年代までは、食物繊維は食べても吸収されず、便となって出てしまうだけ…と考えられていました。しかし研究の結果、食物繊維はどうやら大腸ガンの予防に役立っているらしいと分かり、そこから注目を集めるようになりました。今では、健康意識の高い人にとって欠かせない栄養素となっています。
食物繊維は、心筋梗塞のリスクや血中コレステロール値を下げ、食後の血糖値の急激な上昇を抑える作用も持ちます。生活習慣病の予防にも役立ちますから、積極的に食べることをおすすめします。
腸内環境と食物繊維、短鎖脂肪酸の関係
食物繊維の健康効果をもう少し具体的にみていきましょう。
食物繊維の重要性は、短鎖脂肪酸という有機酸をつくり出すことにも見出せます。大腸内の細菌によって生成される短鎖脂肪酸は、腸内の悪玉菌の増加を抑える殺菌・静菌作用と、ウイルスや病原菌の感染を防ぐ腸管バリア機能を持つ、重要な有機酸です。
短鎖脂肪酸は小腸や大腸の上皮細胞を増やすことも分かっています。腸管上皮の新陳代謝を活発にし、ダメージを受けた腸内を素早く修復してくれるのです。腸のナトリウムや水の吸収を促し、粘液分泌を助ける働きも持ち、腸内環境の改善に一役買っています。
食物繊維で便秘解消ができるのは、短鎖脂肪酸のおかげでもあります。短鎖脂肪酸は腸内を酸性にして大腸の粘膜を刺激し、腸のぜん動運動を活発化させますから、スムーズな排便と健康維持には欠かせません。
これら短鎖脂肪酸を増やすには、食物繊維やオリゴ糖と、その働きを増幅させるビフィズス菌などの善玉菌もしっかり摂る必要があります。
食物繊維を分解できるメリットを活かそう
消化吸収機能は、腸内細菌と身体との共同作業です。日本人が長い歴史から受け継いできた「食物繊維を分解できる」という特徴は、健康維持にとても役立っています。このメリットを使わない手はありません。
「なぜ和食には食物繊維が豊富なのか」
その答えは、日本が長寿国であるという事実に、しっかりと現れているのではないでしょうか。