先生に聞いてみた!

【先生に聞いてみた!】おにぎりと、手の常在菌

しんじ

なあなあ、うちで握るおにぎりは、どうやって作ってるんだ?

さとみ

お米炊いて、具材を用意して…そうそう、この前買ってきた美味しそうな天然塩を使っているわよ。

しんじ

そうじゃなくて、素手で握っているかっていうこと。

さとみ

すぐに食べるなら素手のときもあるけど、お弁当とか時間が経ってから食べる前提のときは、食中毒が怖いからラップで握るけど? どうしたの?

しんじ

ネットで、「手は汚いものだから、絶対ラップで握れ」「いや、手には乳酸菌などのいい菌も付いている。おにぎりは素手で握ってこそ菌の良さを活用できる」という論争を見てしまったんだよ。

さとみ

そうやって、変な情報に踊らされるのやめなさいよ…。
手に乳酸菌が付いているなんて聞いたことないわよ。

しんじ

これまで、素手で愛情たっぷりに握るのが至高のおにぎりだと思っていたけど、そうじゃないのかなあ。

さとみ

昭和ね。人が握ったおにぎりを食べれない子どもも増えているという時代なのに。

登場人物
しんじ
健康診断の結果と、ラクにできそうな健康情報に敏感な会社員。
メタボが気になりだして最近ジョギングを始めた。
情報源はネットニュース。ラーメンとTVドラマが好き。
さとみ
何より無駄遣いが嫌いな、計画的しっかり主婦。
週に3回、英会話教室の講師をしている。
趣味は温泉旅行とワイン。子どもはいない。

「おにぎりを素手で握ることの是非。ネット上では両論を見ることができますが、「素手がいいかどうか」ではなく「手の菌についての捉え方」が論点となるはずです。

教えて先生!

小西康弘Yasuhiro Konishi

医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長

2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士

さとみ

先生、手に乳酸菌が常時付いているという説は本当でしょうか。

先生

乳酸菌は、腸内にいる菌です。衛生環境がよくなかった昔、たとえば汲み取り式の便所などが一般だったころに、便を触ってしまえば腸内細菌が付着したことはあったと思います。しかし普段の生活の中で手に乳酸菌が付いているわけは、ありません。

さとみ

そうなんですか!
手にはいろいろな菌がいるのは理解しているつもりですが、目に見えないので、何が本当か分からなくなってしまいます。

先生

確かに手には、いい菌も悪い菌も付いています。洗い流しても完全に菌を除去することはできません。従って、おにぎりやお寿司はもちろん、素手で料理をしたときは何らかの菌が付くのは当たり前だといえるでしょう。

神経質な方はそれを嫌がりますし、手の常在菌により発酵が進み、体内に有用な菌を取り込めると信じている方は、おにぎりを素手で握ることを推奨しています。

しんじ

おばあちゃんが手で握ってくれたおにぎり、うまかったと思うけど…手の菌が発酵していると思うとちょっとイメージが変わるなあ。

先生

「衛生仮説」というのをご存じでしょうか?

腸内の悪玉菌も身体に必要な役割を果たしているため、敵視する必要はないという考え方です。適度な量の悪玉菌は免疫機能を刺激し、もっと悪い菌が入ってきたときのために抵抗力を整えてくれます。これは本当です。しかし極端になっていくと、おにぎりを握る前に石鹸での手洗いは不要、という説が生まれてしまいます。

おばあちゃんの素手のおにぎりが美味しいのは、環境や心理的な要因からみると当たり前でしょう。しかし不潔な手で握ることが、よいわけはありません。これまでもおにぎりの黄色ブドウ球菌などによる食中毒例が、いくつも報告されています。

さとみ

やっぱりそうですよね。しっかり手を洗ってからおにぎり握ります。

先生

家庭においては、普段の手にある常在菌に過剰反応しなくても大丈夫ですよ。必ずハンドソープを使う必要もありません。

あとはケースバイケースです。極論ですが、下痢状態の人がトイレの後にしっかり手を洗わずにおにぎり握ったら…毒性の強い菌が手に残っていれば、食中毒を起こして当然です。また飲食店や食品加工工場では、厳しい消毒基準が設けられていますよね。それが安全性に対する答えではないでしょうか。

しんじ

では、子どもが他人の握ったおにぎりを食べれない…というのは?

先生

それは、実際に菌がいる・いないではなく、メンタルの問題でしょうね。

なぜそのような子どもが増えているのか分かりませんが、テレビCMがその風潮を後押ししているのではないでしょうか。テーブルや衣服にうじゃうじゃ付着する菌を、除菌商品でクリーンにするCMを見続けると、「除菌後が正しい」と、菌に対する恐怖心が刷り込まれてしまうと思います。

しかしそのようなCMを信じていたら、除菌しないと椅子にも座れなくなってしまいますよ。今まではどうしていましたか?

問題は除菌商品を売るために、「消毒しなければ死んでしまう」かのようなイメージを、子どもにも植え付けていることだと感じています。

しんじ

昭和世代の僕は、ラップを使うようなおにぎりは手抜きだ!という考えも抜けきれないけど、この考えも刷り込みなのか…

先生

刷り込みですね。「おふくろが握ってくれたおにぎりが最高だ」に科学的根拠はないでしょう。もちろん常在菌が発酵して美味しくなったわけでもありません。愛情を感じたから、美味しく思えたのではないでしょうか。

両極端なんですよ、皆さん。2021年現在、新型コロナのこともあり、人の手に触れたものを食べることに敏感にはなっているでしょう。しかし家庭内であれば、リスクは減らしつつ美味しいおにぎりを食べることは可能です。

さとみ

極端な考えに寄らないこと、が大切ですね!

先生

そうですね、情報に躍らされていると、そのうちラップも消毒しないとおにぎりを握れなくなっちゃいますよ。その消毒液には、化学物質がたっぷり入っています。そっちの方が危険だと思いませんか?

素手であってもいいんです。適切にきれいにしてあれば。常識的な範囲の悪玉菌であれば、体内に入っても大丈夫です。免疫機能を刺激し、より強力な菌が入ってきた時のための備えになるからです。

この「おにぎり問題」は、現代人の衛生意識を反映している、とても根深い問題ですね。科学的な判断ができない方が「カリスマ」となり情報発信をすれば、信じた方が被害を受けてしまいます。まさにリテラシーが問われる問題ではないでしょうか。

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