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海外での下痢はなぜ?腸内環境の個体差・地域差の話

海外旅行で、お腹の調子が悪くなることがあります。欧米の先進国への旅行では数%程度にとどまるも、アジア圏やアフリカ、中南米などに旅行に行った日本人の70〜80%が下痢症状を経験するともいわれています。

これらは「旅行者下痢症」ともよばれ、大多数は数日の経過で治りますが、20~30%の人は旅先で寝込み、40%が旅行スケジュールを変更するそうです。

素人で思いつく原因はさまざまです。たとえばよく「水が合わない」といわれますが、マグネシウムなどのミネラル分の多い硬水が下痢症状につながることは十分にあり得るでしょう。日本と大きく食文化が異なる国では、スパイスを大量に使う料理も原因かも知れません。慣れない香辛料が胃腸を刺激すれば、急な下痢症状を起こしても不思議ではありません。

日本に旅行に来た外国人観光客も、同じ割合で「旅行者下痢症」にかかります。どんなに清潔なキッチンで作られた料理でも、その人にとっての「慣れない食材」であれば、腹痛の原因になり得るのです。

日本人は、日頃からとても衛生状態のよい生活を送っています。だから「外国で変なものを食べると、おなかを壊すのは当たり前」という前提で、日本から整腸剤や下痢止めなどの常備薬を持参することが多いはずです。

しかし、その薬がいつものように効くとは限りません。むしろ旅慣れている人の間では、「外国でお腹を壊したら、日本の薬は飲まない方がいい」という説も支持されているくらいです。

いったい、海外旅行に行く私たちのお腹の中は、どうなっているのでしょうか。

\\\ そこのところ、専門医に聞いてみました ///

教えて先生!

小西康弘Yasuhiro Konishi

医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長

2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士

海外旅行中の下痢の原因は大きく分けて、ウイルスや細菌による感染症と、それ以外に分類できます。

感染症には赤痢、コレラ、毒素原性大腸菌による下痢症などが知られています。軽症の人は数日寝込むうちに軽快し、自分が感染したことに気が付かないケースもありますが、重症化したり周囲に感染を広めるようになれば、大事につながります。

単なる下痢だと思い、日本から持参した整腸剤などを飲むことが多くありますが、細菌やウイルスが原因の下痢に、その薬は効きません。かえって悪化させたり、症状を長引かせる可能性もあります。

もうひとつの感染症以外の原因には、急な環境変化によるストレスや、食生活の変化が考えられます。ただし、単に「慣れないものを食べた」というだけではなく、その奥には腸内環境の個体差・地域差が関係していると知っておいてください。

腸内細菌の分布図には地域差がある

腸に入ってきた食べ物を分解・吸収するのは、無数の腸内細菌です。その細菌分布に、ひとつとして同じものはありません。「その人が何を食べて生きてきたか」で、腸内環境には個体差があらわれます。

面白いのは、個人の食履歴だけではなく、地域による違いも出ることです。日本人とイタリア人の腸内環境は、個体差の前に、ベースとなる状態が異なるのです。

そこには、文化的背景や食習慣、主食は何か、家庭料理に使われる調味料は何か…という、複雑な要因がからまり合っています。

海苔を分解できる・できないは腸内環境の違い

たとえば日本人はワカメや昆布、海苔などの海藻類をよく食べる人種です。これらは外国人観光客にとっては未知の食材であり、「寿司を食べたらお腹を壊した」というケースもよく聞かれます。

海藻類には食物繊維が豊富に含まれています。

本来「ヒト」は食物繊維を分解する酵素をもっていませんが、日本人は古来からコンニャクや海苔などの日本独自の繊維質の多い食材を日常的に食べてきました。腸内細菌も長い年月をかけて変化し、母から子へ受け継がれ、分解できない栄養素を体内に吸収できるまでの「日本人独自」の腸内環境をつくりあげてきたのです、

海苔を普段から食べない外国人が寿司を食べたとき、その人の腸内に海苔や未知の食材を分解する菌がいなければ、お腹を壊す可能性が上がるのは当たり前といえるでしょう。
母国で飲みなれている整腸剤や下痢止めも、未知の食材の分解・吸収には対応しきれないこともあります。

感染症が原因の下痢であればウイルスを殺す薬が効果を発揮しますが、食文化の差によって受け継がれ、個体差も大きい腸内環境の状態を整えるための「万人に効く」薬はないからです。

腸内環境は後天的に変えられる

海外旅行も長期になれば、その地域の食材に慣れ、下痢を起こすことも減っていきます。それは未知の食材に腸内環境が順応していくからです。

日本に長く住み和食に慣れ親しんだ外国人も同様で、いつの間にか腸内には新しい菌が住み着き、海苔を分解吸収する力が後天的に身につくでしょう。

また赤ちゃんは出産時に母親の腸内細菌を受け継いで生まれてきます。つまり外国人の子どもであっても、母親が日本人であれば海苔を分解できる身体で生まれてくる可能性が高い、といえます。

母体から受け継いだ腸内細菌に、その人の食履歴が組み合わさり、「唯一無二」の腸内環境が生まれます。ヒトの腸内細菌は、柔軟に変化し、海を越え、未知の食材に対応できる身体をつくり出します。

強い腸内環境を作る必要性

旅行者下痢症は、感染症によるものはすぐに現地医療機関へ行くべきです。しかし
食文化の異なる地域での軽い症状は、腸内細菌が未知の食材に出会い、順応するまでの通過儀礼でもあります。むやみに日本の薬を飲むのではなく、衛生面に気を配り、徐々に慣れさせる必要もあるでしょう。

そしてより大切なのは、多少の刺激や未知の食材に影響されにくい、強い腸内環境を作っておくことです。海外旅行で頼るべきは、日本の整腸剤よりも、自身の腸内細菌だからです。

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