正しい知識

腸内「環境」って、どんな環境?

病気予防の観点から、腸内環境に対する意識はどんどん上がってきています。書店には関連書籍が並び、日頃から腸の健康に気を配る方も増えてきました。

実際、腸内環境の悪化は、慢性的な体調不良につながります。腸は単に食べ物を吸収する管ではありません。「第2の脳」ともいわれる、身体機能を動かす大切な役割を担っているからです。

しかし一般人にとっての「腸内環境」という言葉は、漠然としたイメージのはず。だから環境を整えるといっても、いったいどんな環境を目指せばいいのか…具体的には思い浮かびません。腸内環境は、インテリアのように目で見ながら整えるわけにはいきませんから。

そこで今回は、腸内環境とはいったいどのような環境なのか、どうなっていればベストなのかを探ってみたいと思います。それが分かれば、今日から何をすればいいのか、行動のヒントも見つかるはずです。

\\\ そこのところ、専門医に聞いてみました ///

教えて先生!

小西康弘Yasuhiro Konishi

医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長

2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士

ご存じの通り、人間には「大腸」と「小腸」が存在します。

腸内には500種類・100兆個以上ともいわれる腸内細菌が存在しますが、その細菌の多くは大腸内に住んでいます。それは、胃酸や腸内の収縮の影響がある小腸に住める細菌は限られているためです。

「腸内環境」の良し悪しを決める要素のひとつめは、大腸内の「善玉菌・日和見菌・悪玉菌」の細菌バランスです。細菌バランスはとても個人的で、バリエーションにあふれており、誰ひとりとして同じ人はいないといわれています。

腸内環境ができる仕組み

ヒトの赤ちゃんの消化器は、生まれる前は無菌状態ですが、出産時に産道にいる細菌を飲み込みながら出てきます。生まれて2・3日後には、それらの細菌は小腸と大腸でコロニー(集落)をつくり始め、その人の免疫力形成に大きな影響を与えます。

腸内細菌育成状況は「その人が何を食べたか」で変化し、その人の健康を左右する「個人的な特徴を持つ腸内環境」が構成されていきます。

これまで腸内細菌の生態系は、一生を通じて比較的安定した状態を保つといわれてきました。しかし最近では、老化が進むにつれて腸内細菌の構成が変わることも分かってきています。

小腸の働き

大腸の役割については漠然とでも分かっている人が多いと思いますが、小腸の役割についてはっきりと知っている人は少ないかも知れません。ここからは、小腸の役割について詳しく見ていきたいと思います。

【小腸のふたつの機能】
①食べたものを、人体に有益な微細粒子に変え、血液中に栄養として送り込む
②分子の大きな食べ物や毒素、有害細菌をブロックする

人間が口から入れるものは、食べ物だけとは限りません。身体にとって有害な細菌や炎症物質、毒素なども、食べ物と一緒に小腸に届きます。

小腸はそれを仕分けして有害物質をブロックし、栄養素を正しい形で血中に取り込みます。小腸は「外界からの敵をブロックする固いガードの役目」とイメージしていただくとよいでしょう。最新の研究では、小腸の細胞内には、毒素を解毒する酵素が発現されていることも分かってきています。

小腸に「破れ」ができるとどうなるか

人間の小腸は「絨毛(じゅうもう)」と呼ばれる何百ものひだでできており、ひだをすべて広げると、その表面面積はテニスコート一面分にもなります。それだけの面積の「腸壁(ちょうへき)」が、さらに組織を守る粘膜と細菌で覆われ、外界からの異物をブロックしています。

腸壁はとても薄く、まぶたの薄さの層一枚でできています。そのためダメージに弱く、破れて目に見えない小さな穴が開くことがあります。

本来の健康な腸壁は、きちんと消化されたタンパク質・脂肪・デンプンだけを通しますから、良い栄養素だけが血中に運ばれ、身体全体が正しく機能します。しかし腸壁が炎症を起こして細胞の接合点がゆるくなれば、大きなサイズの分子も通してしまいます。この状態をリーキーガットといいます。

小腸でリーキーガットが起きた状態は、腸内環境の悪化の極みともいえるでしょう。

腸管から血中に流れ出した毒素や分子は、さまざまな部位に悪影響を及ぼします。毎日の生活に支障をもたらす慢性疾患や、原因不明で改善できないと思い込まれている病気まで、多種多様な症状の原因になり得るのです。

「腸が原因」と聞くと腹痛や胃腸炎をイメージしがちですが、まったく関係なさそうな症状の原因も、腸内に潜んでいるかも知れません。

小腸と免疫システム

小腸の腸内環境は免疫システムにもかかわっています。免疫システムとは、体内に入ってくる異物や病原菌・毒素などを感知し、それに抵抗して打ち勝つ力です。

腸壁がリーキーガットを起こし、大きなサイズの分子が血中に流れ出すと、異変を感じ取った免疫システムが作動し始めます。

小腸の腸管の内側は、前述の通り粘膜層に覆われていますが、その粘膜は異物ブロックだけではなく、それ自体が免疫的な防御作用を持っています。

本来であれば、その粘膜にある「分泌型免疫グロブリンA」と呼ばれる抗体が侵入者である異物を無力化するのですが、小腸自体がダメージを受けていれば分泌型免疫グロブリンAの量は減り、ブロックできずに感染や慢性疾患の原因となってしまいます。

腸内環境は、全身の健康を司る司令塔

以上のように、小腸は身体のバランスを保つ上で、非常に重要な役割を果たしているわけです。

腸内環境の改善とは、単に善玉菌を増やしたり便秘を解消したりということだけではありません。大腸内の細菌バランスはもちろん、小腸でリーキーガットが起こるのを防ぎ、免疫システムを正常化しておかなければ、本当の意味での腸内環境は整わないのです。

腸は全身の健康の司令塔です。大腸と小腸の健康があってこそ、さまざまな身体機能が働きます。免疫、自律神経、メンタル疾患までもが腸内環境から影響を受けています。

腸内環境は、検査でその状態を把握できます。いま健康な方であっても、未来の健康の土台となる大腸・小腸に意識を向けてみてはいかがでしょうか。

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