正しい知識
医師から見たコロナと手洗い
新型コロナの流行は、私たちにさまざまな「生活様式の変化」を突き付けました。
その中でも、「マスクの着用」と「手洗いの徹底」の浸透は、1年前には考えられなかった変化ではないでしょうか。
そもそも手洗いは、新型コロナが流行する以前から「当然したほうがよい」とされてきました。にも関わらず、あれほどに風邪やインフルエンザが流行していたのは、「昨年までの手洗いは、まったく足りていなかった!」ということでしょう。
なにしろ国民が真剣にマスク・手洗いを徹底した今年は、風邪もインフルエンザも激減しているといいます。本気で全員が頑張れば、病気要因を減らすことはできることの社会的証明になったのではないでしょうか。
では、せっかく定着した手洗いを「よりコロナ予防に効果的に」行うには、どうすればよいでしょう。
それには、まずはウイルスがどこに付着し、どうすれば除去できるのかを知る必要があるようです。今日は、肉眼で見えない相手だからこその戦い方を考えてみましょう。
\\\ 本当のところを、専門医に聞いてきました ///
教えて先生!
小西康弘Yasuhiro Konishi
医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長
2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士
新型コロナウイルスの概要については、さまざまなメディアで語られていますから、ここでは割愛します。
「新型」というだけで、コロナウイルスは日常的に感染する風邪ウイルスの一種であることには変わりありません。これまでいわれてきた「うがい手洗い、マスク着用、体力(免疫力)を落とさない」という風邪予防と同じ対策で、感染の可能性は低くなります。
ここまで大騒ぎされているのは、新型ゆえに感染メカニズムや予後が判明していない部分があることと、世界同時で感染拡大したこと、地域(あるいは国)によって死亡率が高いことが理由です。新しいリスクに、人々が過剰反応したといえるでしょう。
誰であっても、これまで経験したことのない「できごと」には敏感です。いくら「冷静に、科学的根拠をもとに判断しましょう!」といったところで、実際にはそんなに冷静には行動できません。自粛騒ぎから半年が経過し、社会全体がようやく新しい環境に慣れてきました。やっと、冷静な対処ができるようになったと感じています。
ウイルスは手を介し、体内に侵入する
この時期に「どうすれば感染リスクを減らせるか」について改めて整理しておくことは、意味があると思います。
マスクの重要性はいうまでもありませんが、ここでは詳しくは触れません。新型コロナウイルスの感染予防でマスクと同様に大切なのは、手洗いです。なぜならウイルスは、手を介して体内に入るからです。
といっても、手に付着したウイルスが皮膚から直接体内に入るわけではありません。侵入経路は口腔内か鼻腔の粘膜です。たとえ手にウイルスが付着していても、その手で口や鼻を触らなければ、感染することはありません。
そういう意味では食事前の手洗いにこそ意味があります。ウイルスの付着した手で食器や箸を触ってしまえば、感染リスクが高まるからです。
せっけんがなくても、流水でウイルスは洗い流せる
ネット上には、「水洗いだけでも効果はあるのか」「どの種類のせっけんがいいのか」という話題もたくさんあがっています。
確かに、食事前やトイレのあとの「日常的手洗い」よりも、アルコールやせっけんを正しく使用した「衛生的手洗い」の方が感染リスクを下げるといわれています。ただし、実際にどれくらい下がるのか、まだまだエビデンスは確立されていません。
一番大切なのは、手に付着したウイルスを「水で洗い流す」行為です。石鹸でわざわざウイルスを殺菌しなくても、水で洗い流しさえすれば、感染リスクは減らせるからです。
洗ったあとのハンカチには注意
個人的には、せっけんやアルコールの有無に、それほど神経質にならなくてもいいのではないかと思います。むしろ手洗い後のハンカチに気を配るべきです。手を洗っても、ハンカチにウイルスが付着していれば、元も子もありません。
感染リスクを下げるなら、ペーパータオルなどで拭くのが理想的だと思います。とはいえ最近は、どういう根拠か分かりませんが、ペーパータオルを設置しない風潮があります。その場合は手洗い後のアルコール消毒が有効でしょう。
手洗いをしてから、あちらこちらをベタベタ触ったのでは、またウイルスが手に付着するリスクが出てきます。手洗いは食器や箸を触る前か、食事の直前に行うのが効果的です。消毒液を用いるのであらば、このタイミングに行うのがいいでしょう。
免疫力を上げて感染リスクを減らすことが大切
確かに新型コロナウイルスは、まだまだリスクが未知であり、ネットの情報に不安を感じる方も多いでしょう。しかし、手にウイルスが付着しただけで感染することはありません。
手を経由して、たとえ体内に入ったとしても、すぐに感染するわけでありません。私たちの身体には、ウイルスから自分自身を守る防衛機序(すなわち自己治癒力)が二重三重に備わっているからです。必要以上に手洗いに神経質になるより、自分自身の免疫力を高める方が結果的に高効果だと考えられます。
新型コロナウイルスの流行が生んだ社会不安や、それに伴う行動様式の変化は、とてもインパクトのあるものでした。初期のパニック的な反応が落ち着いてきた今こそ、冷静にリスクについて考え、正しく恐れ正しく対策をすることが、今を生きる私たちに求められる行動ではないでしょうか。