正しい知識
医学からみたデトックス
すっかり市民権を得た「デトックス」という言葉ですが、医学的にみたときにどのような説明がされるか、聞いたことありますか?
デトックスは健康維持にとって大切な考え方ですが、どうも「悪いものを出す」というフワッとしたイメージだけが定着しているようです。民間医療やちょっと怪しい治療法にもよく使われている言葉のため、科学的な根拠がないようにも捉えられがちです。
もしかしたらあなたも、
「悪いものって何だよ?」
「出すってどこから?」
と、デトックスに夢中になっている女子に冷ややかな目線を送っているかもしれませんね。
女子がせっせと飲んでいるデトックスウォーターや、気休めの運動などに効果があるかはさておき、体内の不要物を出す努力自体は、悪いことではありません。ただし本気でデトックスを考えるなら、単に「悪いものを出す」だけではなく、その裏にある人体機能について正しく理解する必要が出てくるようです。
\\\ 本当のところを、専門医に聞いてみました ///
教えて先生!
小西康弘Yasuhiro Konishi
医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長
2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士
デトックスとは身体に溜まった毒素を排出することです。毒素という言葉はトンデモ医療の本にもよく出てきますから、非科学的だとイメージされる方もいると思いますが、医学的に見ても必要な考え方です。
日本では昔から「解毒」という考え方が重視されてきました。江戸時代の儒学者、貝原益軒は、著書の養生訓の中で「酢、生姜、わさび、胡椒、からしや山椒などは食事に含まれる毒を制してくれる」と書いています。
自然の中には、人間にとって有害な物質が存在します。さらに現代では食品添加物や化学物質が体内に入る機会も増えました。それらが体内に留まることはいいことでしょうか。病気の原因にもなり得ますし、健康にとってよい状態とはいえません。
人間に備わった大切な機能、デトックス
食べ物には、栄養素だけではなく重金属や環境汚染物質も含まれています。身体には解毒機能が備わっていますから、必要な栄養素を吸収した後の不要物は、肝臓や腎臓を通じて自然に排出されます。特に肝臓には毒素を分解する酵素が多く存在し、解毒臓器として大きな役割を果たしています。
この解毒機能が、俗にいう「デトックス機能」です。れっきとした、人体に元から備わっている機能ですから、その働き自体が怪しいわけではありません。
肝臓とデトックス
体内に入った不要物質や毒素は、肝臓で解毒され、胆汁に分泌されて腸管内を通り、便として排出されていきます。腸肝循環と呼ばれるこの働きは、身体に備わった大切な自己治癒力です。
毒素の入る量と、出せる量のバランスが取れている状態を「健康」といいます。しかし何らかの要因で入る量が増えたり、出す力が弱まると、肝臓や腎臓では毒素を処理しきれず、体内に有害物質が滞留してしまうでしょう。
デトックスすべきは重金属
「毒素」とひとくくりにされがちな有害物質ですが、その中の一つに重金属があります。
体内に溜まる主な重金属としては、鉛、ヒ素、カドミウム、アルミニウムなどが知られています。これらは汚染された大気や、化学肥料、化粧品や洗剤、そして地球の鉱物が溶け出した地下水やそれを使った農作物など、避けたくても避けられないものに入っています。タバコや歯の詰め物にはアマルガム、マグロなど大型の魚介類には水銀が含まれています。
これらの重金属が蓄積されると、アトピー性皮膚炎やアレルギー疾患、発達障害や慢性疲労症候群などの原因になると考えられています。アルツハイマー病やパーキンソン病などにも関係しているとも指摘されますから、無視はできません。
実際、当院で重金属を調べる検査を行うと、大量に溜まった重金属が原因不明の症状の原因となっているケースが多くあります。
重金属の解毒に役立つのは「グルタチオン」です。グルタチオンは全身のほぼすべての細胞に存在する最強の解毒酵素で、主に肝臓で生成されます。デトックスのためには肝臓の保護が大切である、大きな理由のひとつです。
肝臓腎臓だけではなく、腸にも注目
デトックス機能を強めるには、腸にも注目してください。
最近の研究では、腸管の粘膜自体から解毒を行う酵素が発現されていることが分かってきました。さらには、腸内細菌にも毒素を解毒する働きがあることも知られ始めています。
腸は肝臓に匹敵するデトックス臓器です。腸に炎症が起きれば腸壁に穴が開き、リーキーガットという状態を引き起こします。リーキガットでバリア機能が低下した腸壁からは、未消化な食べ物だけではなく重金属や汚染物質も血中に漏れ出します。デトックスに気を配った生活をしていても、出せる量を超えた有害物質が体内を巡れば、健康は損なわれてしまうでしょう。
いつもクリーンな体内を保つには
一般的な「デトックス」は、毒素を体外に排出する意味だけで語られることが多いようです。しかし医学的に見れば、排出力の根底には腎臓肝臓、腸、ひいてはミトコンドリアの機能不全など多くの要素が関係しており、単純に語ることはできません。細胞レベル、臓器レベル、腸内細菌レベルで、さまざまな機能がデトックスのために働いているからです。
デトックス力を最大限に発揮し、一生維持するためには、まずは人間らしい生活を送りましょう。本当のデトックスとは、単に出すことではなく、毒素が滞留しない巡りのよい身体を総合的に維持することに他ならなのです。