正しい知識
医師から見たコロナとマスク
新型コロナウイルスの影響で一番大きな、「目に見える変化」は、道行く人たちがほぼ全員マスクをするようになったことではないでしょうか。
幼稚園児や小学1年生などは、「クラスメイトの素顔をほとんど見ない」まま社会生活が始ってしまったとのことで、これは10年後、20年後のコミュニケーションにも何らかの影響があるようで、興味深くもありますね。
マスクは当然ながら、新型コロナにかからないためにするもの。手洗いと同様に、生活の中でできる、身近な対策です。
参考記事)医師から見たコロナと手洗い
しかしマスクの予防効果も、まだまだ未知数。さまざまな実験が繰り返されていますが、エビデンスが確立したとはいえない状況です。
もしかして人類は、このまま永遠に「人と話すときはマスク」をする羽目になるのでしょうか。それは大げさにしても、いったいどれくらいマスクの予防効果を信じたらよいのでしょうか…?
\\\ そのあたり、専門医に聞いてみました ///
教えて先生!
小西康弘Yasuhiro Konishi
医療法人全人会 理事長 / 小西統合医療内科 院長
2013年より 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医 / 医学博士
新型コロナウイルスの感染経路として、飛沫感染とエアロゾル感染が考えられています。エアロゾルとは空気中に漂う細かい粒子を指します。飛沫感染と同じ意味合いで使われることが多く、実際、予防の際には同じ行動が必要ですが、厳密にいえば飛沫感染とは違います。
飛沫感染は、くしゃみや咳で出た、水分を含んだ飛沫が飛び散ることで、人に感染します。一般的に飛沫が飛べる距離は2メートル程度といわれており、ソーシャルディスタンスと呼ばれる距離の根拠になっています。
それに対しエアロゾルは、飛び散った飛沫の水分が空気中で蒸発し、直径5㎛以下の「飛沫核」とよばれるウイルスだけが残った状態を指します。エアロゾルの特徴は、水分がない分、空気中に浮遊しやすいことです。
エアロゾルはマスクで防げるか
マスクには、一定の飛沫感染の予防効果があるでしょう。しかしエアロゾル感染のリスクを下げるかどうかについては、まだまだ議論が必要だと考えています。理論的には、エアロゾルの微粒子はマスクでは完全予防できないからです。
飛沫と違い、エアロゾルは3時間ほど感染性を残したまま、10数メートルも浮遊するとされています。つまりソーシャルディスタンスだけでは不十分なのです。
エアロゾル感染のリスクを少しでも下げるためにも、3密回避は引き続き大切でしょう。密室内で会話をしたとき、誰もエアロゾルからは逃げられません。カラオケボックスなどの狭い部屋が危険とされているのは、そのためです。だからこそ換気は大切です。マスクをしていても、定期的な換気を行いましょう。
マスクは無意味なのか
市販のマスクで感染予防ができないのなら、しない方がましではないか?という意見もあります。その意見も否定しきれません。
ただし、感染者がマスクをすることで、人に感染させるリスクを減らせる可能性があるという、実際の新型コロナウイルスを使った東京大学の実験結果も出ています。
新型コロナウイルスに限らず、どのような病気にもパーフェクトな予防法は存在しません。自分自身の完全な予防にはなり得なくても、社会全体のリスクを減らせるのであれば、マスクは有効だといえるのではないでしょうか。
人は安心を求める
新型コロナで生まれた最も大きな社会的影響は、「漠然とした不安」ではないでしょうか。未知の病気に世界規模で感染していくという、パンデミック映画のような状況は、数年前まで誰も予期していませんでしたし、今後の見通しも立っていません。
だから、たとえマスクの予防効果が立証されていなくても、精神的に安心が得られるのであれば、それなりの効果はあると考えられます。
電車に乗るとき、密室で人に会うときは、マスクがある方が気持ちの面でも安心なはずです。日常行動のストレスは免疫力低下にもつながります。人が人らしく安心して暮らすことが、実は感染リスク低下の要になるのかもしれません。