基礎知識

【医師に聞く】 身体と会話し、変化していく「マイクロバイオーム」

笑い合う親子

産まれる前の赤ちゃんは無菌状態です。ではどうして、生まれてすぐに腸内に細菌が住み着き、消化吸収を助けるのでしょうか?またその腸内細菌の状態に個体差があるのは、なぜでしょうか?

私たちをまさに「生かして」いる体内の無数の微生物たちが、どのように環境変化を受け入れて行くのかを知ることは、健康維持の観点から見てもとても重要です。

今回は、まるで小宇宙のような腸内細菌とマイクロバイオームが、人体にとってどのような役割を果たしているのかを医師に聞いてみました。

マイクロバイオームは微生物のあつまり

人の身体の中には、無数の微生物が存在します。

それらの微生物は、ただ単に「居る」だけではなく、生きていくための食べ物の消化吸収をしたり、病原菌の侵入を防いだり、免疫のバランスを整えたり…さまざまな役割を果たしています。身体機能のみならず、メンタルへの影響も大きいことも分かっています。

この、人体の微生物の生態系を「マイクロバイオーム(微生物叢)」といいます。
「叢(そう)」とは草むらのことを指し、多種多様な微生物が、影響し合い、絡まり合い、人体との間に密接なコミュニケーションを取っているのです。

一番微生物が多いのは腸内

人体の中で最も微生物が多い器官は、腸です。これは「腸内フローラ」という言葉からもイメージできるように、腸内には多種類の菌が存在し、その菌の種類は人によってさまざまです。
しかし、その人の腸内フローラは、生まれたときに完成されているわけではありません。
赤ちゃんがおなかの中にいる間は、腸の中は全くの無菌状態。しかし、膣の中を通って産まれるときに、お母さんの産道にいるマイクロバイオーム…微生物たちを飲み込んで生まれてくるのです。

腸内環境は遺伝ではない

お母さんの膣の中には、妊娠中に繁殖した善玉菌や悪玉菌が存在し、それらの菌が暖かいベッドの役割を果たし、酪酸菌という菌が増殖します。

経腟分娩では、産道の中の菌を飲み込んで、その子どもははじめて自分の腸内フローラを形成し始めるのです。出産直前になるとお母さんの膣内のフローラが変化し始め、子供にとって一番最適なように変化することが分かっています。

つまり腸内フローラの状態は、遺伝ではなく、飲み込んだお母さんの産道のフローラによって形づくられる…ということです。

当然、その産道のフローラのバランスがイマイチだった…というケースもありますが、そこからくるリスクを防ぐため、婦人科の先生は必ず出産前にカンジタ菌等がいないか調べ、もし見つかったら除菌をします。

また、お母さんから受け継いだ腸内フローラが少し弱くても、生まれたあとは子ども自身が自分の腸内フローラをしっかり育てていけばいいのです。

生まれてから3歳になるまでの間は、子どもの腸内フローラが、はじめて口から入ってくる食材や栄養素を柔軟に受け入れていく「免疫寛容」の状態になっています。

この期間中にどのような食べ物を食べるかが、それ以後の人生にも大きな影響を与えるのです。「三つ子の魂100まで」ということわざがありますが、「免疫寛容」の立場から見ても当たっているわけです。

食物繊維を分解できない人間

マイクロバイオームの多様性、そして個体差についてイメージできたところで、それがより分かるお話をしましょう。

便秘解消や健康のために、食物繊維を積極的に食べている人が多くいますが、人間は本来、食物繊維を分解することができません。

しかし、日本人は食物繊維を分解することができます。
これは、腸内の細菌が食物繊維を分解しているのです。

食物繊維を多く食べる民族の腸内フローラは、食文化に順応し、食物繊維を分解する腸内フローラが増えることで食物繊維を分解できるようになっています。しかしあまり食物繊維を摂らない民族の腸内フローラには、食物繊維を分解できる菌がそれほど多くはいません。

つまり、民族や生まれ育った文化土壌によって、腸内フローラのバランスはまったく異なるのです。

たとえば、「海苔を消化できるのは日本人だけ」という話があります。これはその通りで、外国の人が日本で海苔を食べて、おなかをこわす可能性は十分にあり得ます。

普段食べ慣れないものを食べ、それを分解する細菌が自分の身体の中にいない場合…つまり人間の分泌する消化酵素で海苔を分解できなければ、分解できないまま出てしまうか、おなかの不調を感じるのです。

異なる食文化に触れて、「消化できなかった」のは、単純に食べ慣れないという理由だけではなく、体内の腸内フローラに深く関係しているのです。

コアラが毒のあるユーカリを分解できる理由

コアラ

上記の例は、人間に限ったことではありません。

コアラはユーカリの葉しか食べませんが、ユーカリの葉にはシアン化水素という有毒成分が含まれています。また繊維成分が多く硬いため消化しにくく、栄養成分もまったくありません。さらに、コアラの遺伝子には、ユーカリの葉(繊維質のセルロース)を消化吸収する酵素をつくる能力もありません。

ではなぜコアラは、ユーカリの葉を唯一の食事とすることができているのでしょうか。

それは、コアラの腸内に住むマイクロバイオームが、ユーカリの毒素を無毒化し、繊維質を分解してエネルギー源へ変化させているからなのです。

コアラの赤ちゃんも、生まれたばかりのときは、ユーカリの葉を分解するマイクロバイオームを持っていません。しかし母乳から離れる頃から、母コアラは、自分の便を「離乳食」として与え始めます。

この時期、母コアラから出る便は「パップ」と呼ばれる特別な便。
その中には、消火しやすく分解されたユーカリの葉と、腸内細菌が豊富に含まれています。

そうして、母コアラの「パップ」から、ユーカリの葉を食べて生きていけるだけのマイクロバイオームを十分に受け取った赤ちゃんコアラは、他の生物が食べられないユーカリの葉を主食として、生きていけるようになるのです。

個体差のある消化吸収機能

人間とコアラの例を見て分かるように、消化吸収機能は、身体とマイクロバイオームとの「共同作業」です。これが、マイクロバイオームが人体と会話をし、密接なコミュニケーションを取っている…といわれる理由です。

「生まれたそのとき」から腸内環境が固定されるのではなく、母親から受け継ぐ菌・自分で育てる菌によって、その状態は大きく変化していくのです。

そして、マイクロバイオームは、普段食べるものに対応して変化していきます。また生活習慣の影響も受けるため、ある程度の年齢になってからの個体差は、非常に大きいものになります。

ダイエットや健康目的の一般的な栄養指導でも、すぐに結果が出る人と、出にくい人に分かれてしまうのは、そのような理由です。決して基礎代謝が違うわけではなく、その人のマイクロバイオームの状態に関連している可能性があるのです。

ダイエットで腸内環境の話が出るとき、やせ菌・太る菌がいますよ…という例が出されますが、それもマイクロバイオームのバランスによって異なりますから、単純なカロリー計算ではなく、マイクロバイオームの状態を考えた栄養指導が必要になっていくでしょう。

環境に順応するマイクロバイオーム

近年、食の安全性が問われつつあります。これは、食べ物自体が危険になったわけではなく、食べ物に含まれるいろいろな化学物質や、人工的な添加物の量が昔より多くなっている、ということです。

それらの添加物は、自然には存在しない物質です。人体にとっての異物ですから、消化も吸収もできません。人類は、それらを分解する酵素をまだ持っていないからです。

しかしいつか、異物である添加物をも分解する腸内フローラが突然変異で現れる可能性は、十分にあるでしょう。

そのような環境順応は、人体機能ではなく、マイクロバイオームという「無数の細菌」たちによって、行われていくのです。

まとめ

ガン、糖尿病、アレルギーや喘息、炎症性腸疾患から自閉症まで…現代社会で増えてきている病気の発症や予防には、このマイクロバイオームが重要な役割を果たしていることが分かってきました。健康維持のためには、マイクロバイオームの働きについて知り、体内の微生物のバランスをより良い状態でキープすることが重要なのです。

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